6時25分、辺りはまだ夜。
青白い月が浮かぶ中、民宿宍喰を後にする。
昨夜は一体、あたしは何を語ったのだろう?
醒めぬ酔いで、頭も、足取りも、ふらふらだった。
凍った空気が肌を突く。火照る頬には気持ちいい。
しかしいくら吸い込んでも、頭の中は晴れない。
「遍路道に出ないと」、国道55号が上のほうに見える。
月が照らすだけの見知らぬ土地は勝手が分らず、
しばらくうろうろして、ようやく国道に出た。
遍路2日目に懐中電灯を送り返したことを後悔した。
足元の安全もそうだが、道路標識の文字が確認できない。
しかし、次の寺までは国道55号をひたすら歩くだけ。
進む方向も分ってる。なにも問題はないのに、心配だった。
国道を歩くあたしと、かつてのあたしが重なる。
今のあたしには108ヵ所歩き通す目的がある。
とぼとぼ、てくてく。目的を持ってひたすら歩く幸せ。
だがプチ家出して、繁華街を彷徨った時は…。
目的がないと、歩く行為は時間潰しの付属品でしかない。
今が楽しければ。友達と一緒に盛り上がってるときはいい。
でも高揚した気分もいつかは冷める。「帰らないと」
家に帰れば怒られる。怒られるのがイヤでぐずるあたし。
歩けば歩くほど、時間が経つほど、気分は重たくなった。
問題を先延ばしにすることは時間をゴミ箱に捨てること。
携帯で愚痴を延々と続ける友人を時間泥棒って思う。
だけど他人には言えても自分に言うのは難しい。
自分の時間をいくら浪費しようが自分の勝手でしょ。
開き直るほど、浪費は確実に増えつづける。
だから、プチ家出で得た経験は、先延ばししない。
いずれ家に帰る以上、いつかは怒られる。
ぐずぐず先延ばししても怒られることに変わりはない。
それならば、どう考えても早く怒られたほうが得だ。
怒られる不安から解放され、そして、家でぐっすり眠りたい。
違う。帰れない本当の理由は怒られるからじゃない。
それは面倒臭いだるい相手をかわす嘘。自分には通じない。
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