11長い水床トンネルをぬけると、高知だった。
抜けた先には東雲に染まる空と海、海辺の焚き火があった。
涙がこぼれる瞳に一面のピンクがやさしく映っていた。
そうしてあたしも、長いトンネルの先に光を見出していた。
昨夜の酔いはまだ残っている。
“人前で泣くなんて”と木霊する頭の声を消したくて、
痛む足に先を急がせ、責め立てる頭の声を抑え込む。
こういうとき歩き遍路って自傷行為かもって思う。
リストカットもまた痛みで痛みを麻痺させる行為だ。
肉体の痛みで精神的な痛みを紛らわす。
そして真実にはつんざくような痛みがあった。
見えていたのに、分かることなのに、盲目だった自分。
気付けばすぐに納得できるのに、気付かなかった自分。
真実を幾重にも包む欺瞞はあたしにやさしかった。
いつも別の理由を与えて真実から逸らせてくれた。
常にもっともらしい言い訳を用意していてくれた。
昨夜の飲み会の記憶が徐々に甦る。
あたしは父親のことを口にした途端、泣き出した。
その先は覚えていない。だが脳裏をかすめたあれは…
「!!」
突然、行き当たったある記憶。
あたしは声にならない絶叫をあげた。
すべてが円満に解決したのに。
いまさら。なぜ、思い出すのか。
あたしはずっと囚われたままなのか?
気持ちが、心が、理性が?許してくれない?
それとも許せずにこだわり続けているのか。
強いと思っていた自分が急に弱く脆く思えた。
気が緩んで腰砕けになりそうだった。
責め立てる声に隠れていたのはやさしさだった。
注意を過去の傷口から遠ざけるために、声は責め立てた。
“あの出来事”をあたしが思い出さないように。
要らないお節介を。声は親切に気遣ってくれていた。
すべての辻褄があった。
昨夜の時点であたしは気付いていたのだろう。
気付いてもなお、否定したくて、逃げたくて、
度を超えた酔いを口実に忘れることを選んだ。
だからあたしは泣き出した。
未だに許せずにいる自分にたまらず。
悲しくて。悔しくて。可哀相で。
また、涙が出た。
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