100.(1/15)つんざく痛み

100.(1/15)つんざく痛み

11長い水床トンネルをぬけると、高知だった。
抜けた先には東雲に染まる空と海、海辺の焚き火があった。
涙がこぼれる瞳に一面のピンクがやさしく映っていた。
そうしてあたしも、長いトンネルの先に光を見出していた。

昨夜の酔いはまだ残っている。
“人前で泣くなんて”と木霊する頭の声を消したくて、
痛む足に先を急がせ、責め立てる頭の声を抑え込む。
こういうとき歩き遍路って自傷行為かもって思う。
リストカットもまた痛みで痛みを麻痺させる行為だ。
肉体の痛みで精神的な痛みを紛らわす。

そして真実にはつんざくような痛みがあった。
見えていたのに、分かることなのに、盲目だった自分。
気付けばすぐに納得できるのに、気付かなかった自分。
真実を幾重にも包む欺瞞はあたしにやさしかった。
いつも別の理由を与えて真実から逸らせてくれた。
常にもっともらしい言い訳を用意していてくれた。

昨夜の飲み会の記憶が徐々に甦る。
あたしは父親のことを口にした途端、泣き出した。
その先は覚えていない。だが脳裏をかすめたあれは…
「!!」
突然、行き当たったある記憶。
あたしは声にならない絶叫をあげた。

すべてが円満に解決したのに。
いまさら。なぜ、思い出すのか。
あたしはずっと囚われたままなのか?
気持ちが、心が、理性が?許してくれない?
それとも許せずにこだわり続けているのか。

強いと思っていた自分が急に弱く脆く思えた。
気が緩んで腰砕けになりそうだった。
責め立てる声に隠れていたのはやさしさだった。
注意を過去の傷口から遠ざけるために、声は責め立てた。
“あの出来事”をあたしが思い出さないように。
要らないお節介を。声は親切に気遣ってくれていた。

すべての辻褄があった。
昨夜の時点であたしは気付いていたのだろう。
気付いてもなお、否定したくて、逃げたくて、
度を超えた酔いを口実に忘れることを選んだ。

だからあたしは泣き出した。
未だに許せずにいる自分にたまらず。
悲しくて。悔しくて。可哀相で。
また、涙が出た。

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