1/7.徳島編_遍路2日目

1/7.遍路2日目

07.火照る足

朝は弱いほうだった。
セットした携帯のアラームで起きれるか不安だった。

前夜早く寝付けるよう、
風邪薬でもあり筋肉痛にも効くという、
漢方薬の漢根葛を飲んで眠る。

6時20分。
アラームが鳴る前に自然と目が覚める。
全身が気だるく、足が熱っぽい。
関節が痛く、布団から起き上がろうにも、
体が思うように動かない。

「おはようございます。食事の用意ができました」
そう、食堂から部屋に連絡が入る。
立ち上がり、ゆっくりと足を踏み出す。
床につく足から鈍い痛みが広がった。

08.くすぶる不安

宿を後にした足は、重かった。
1キロ先の安楽寺がやけに遠い。
朝の道路は出勤の車が行き交う。
リュックを背負って歩く私に、
時折、好奇な視線を投げていく。

おぼつかない足取り。
私の目線は自然と、自分の足元を見つめていた。
広がる不安に、そらしていた疑問が頭でリピート。
“私、仕事もしないで、なに歩いてるんだろう?”

四国出発前からくすぶり続けていた将来への不安。
今は遊んでいても、まだ大丈夫。
でも、年取ったときどうする?
こんな生活じゃ、安定も保証も望めないのに。

09.弱い自分

長い30分が過ぎ、ようやく安楽寺に到着。
景色に栄える仁王門がまぶしかった。
ロウソクと線香を供える。
躊躇したが、お経を黙読。
強いモノにすがりたい、弱い自分がいた。

ご朱印を貰い、寺を去ろうとすると声をかけられる。
二十代半ばの男性「へたれ遍路」さんだった。
同世代のお遍路さんに会うのは初めてだったので、
しばらくその場で話し込む。

「昨日別格で修行していたお坊さんと知り合って、
行動を共にしているんですが、
良ければ明日の焼山寺はご一緒しませんか?」

連れのお坊さんの話も興味深いとのこと。
即答で、申し出を受ける私。
「じゃあ、また明日。あとでメールします」
そう言って、私は先にその場を後にした。

10.重い荷物

リュックの重みが肩に堪える。
目は前方を向くが、探すのは座れる場所。
段差のある所を見つけては、へたり込む。

背中の荷物を降ろし、張った肩をほぐす。
バンテリンをすり込み、サロンパスを貼る。
同じように、靴を脱いで足もほぐす。
軽くお茶とカロリーメイトを食べて、また歩く。

わずかな休憩でも調子を戻すのに時間がかかった。
休まず歩き続けたいが、我慢の限界を超えていた。
5分程度の休憩を、こまめ過ぎるほどとる。

ようやく、10番切幡寺の手前にたどり着く。
333段の階段が目の前をふさぐ。
登りきったら休憩、そう自分に言い聞かせ歩く。

すると、売店のおばちゃんに声をかけられた。

11.噂の『絹あめ』

「荷物は見てるから、置いて行ってらっしゃい。」
荷物の重みに耐えかねていた私には天の声。
お言葉に甘え、リュックを預かってもらう。

「車道より階段を登るとラクよ。」一気に軽くなった体。
「すぐに戻ります」
そういって、階段を駆けた。

お参りとご朱印を済ませ、売店に戻る。
ご苦労様と、お茶を勧めてくださった。

お礼も兼ね、その売店の名物『絹あめ』を購入。
歩き遍路に評判の飴で、優しい甘味が疲れに効く。
しばらく話し込み、そして、売店を後にした。

12.歪む笑顔

次は、11番藤井寺。
明日に控える最初の難所、焼山寺に備え、
なんとか今日中に納経を済ませたい。
いったん宿に寄ってから寺を目指すつもりだった。

うつむき、黙々と、小股に歩く。
一歩ごとに疲労した筋肉の痛みが増す。
納経時間に間に合うか時計を何度もチェック。
道を間違えていないか、地図や道標を確認。

肉体的にも辛かったがそれ以上に、
精神的な余裕がなくなりかけていた。

車の接待の申し出が相次ぐ。
受けたい誘惑と怒鳴りたい欲求を必死に押し殺す。
繕った断りの笑顔も歪んでいたはずだ。

“お願いだから、声をかけないで”
“負けそうだら、ほっといて”
“そんな、ヤサシサ、いらない”

13.八つ当たり

痛みで感情もささくれていた。
私を気遣う他人の労りは、全く見えなかった。

自分を甘やかしてしまいそうな、
自分自身に抵抗するのが苦しくて仕方ない。
不満が溜まった。

私が必死になって歩き遂げようともがいているのに、
なぜ他人は邪魔するの?
私が安易さを求めているように映るから?
女だからって意志まで弱いように見えるから?

「大変でしょ。ほら、乗って乗って。」
親切な言葉の裏にある、私を否定する感情。
私の遍路に対する想いは絶対に見えてない。
遍路に真剣に挑戦しているのに。
あー、イライラする。

余裕なくしてまで、なんで歩いてるんだろう。
歩くのを強要されたわけでもないのに。
歩かないでラクしても誰も何も言わないのに。
ただ、失望されるだけなのに。

4時50分。
11番藤井寺にぎりぎり到着。
参拝とご朱印を済ませ、同じ道を宿へと引き返す。

納経時間に間に合い、
焦っていた気持ちが落ち着いたのか、
道は同じでも心境はガラリと変わった。

1/7.移動と宿泊

本日の移動

8:00 民宿寿食堂
8:25 6番安楽寺
9:10 7番十楽寺
10:55 8番熊谷寺
11:55 9番法輪寺
13:30 10番切幡寺
16:00 米谷旅館(荷物置く)
16:50 11番藤井寺
18:00 米谷旅館

本日の宿泊

名前 米谷旅館(0883-25-2226)
場所 10番~11番の遍路道の途中
少し遍路道から外れる
料金 6,800円
洗濯
備考 お部屋に食事が運ばれた

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