1/8.徳島編_遍路3日目

1/8.徳島編_遍路3日目

14.ネット友達

前夜は持ってきたノートパソコンにPHSをつなげ、
ネット友達とMSNを使って話し込んだ。
とりとめのない話題をだらだら話す。
四国にいるというより、自宅にいる感じ。
違うのはアクビが止まらないことぐらい。

“もう寝る”
“(*’O’*)お(*’∇’*)や(*’・’*)す(*’ー’*)み♪ ”

自分から眠くて落ちることはほとんどなかった。
相手を変えては朝まで話し込んでた私。
いつも時間を持てあましては溜息をつき、
無駄遣いしてる時間を考えては憂鬱になっていた。

ネット友達の大半は顔も知らない未知の相手。
1年前の大学卒業間際、就職活動に見切りをつけ、
時間潰しに始めたネトゲを通じて知り合った。

—–
MSNとは
MSNメッセンジャーの略。
マイクロソフト社が無料で配布しているコミュニケーションソフト。
サイトへ。 チャット以外に音声会話やテレビ電話としても利用できる。
—–
ネトゲとは
ネットワークゲームの略。
無料で遊べるものから、有料のものまであるネットにつなげて遊ぶ
オンラインゲームのこと。主にコミュニケーションを楽しむものが多い。

15.廃人ゲーム

通称、無人島。
映画バトルロワイヤルをモチーフとした、
参加者同士が殺し合うことを目的としたCGIゲーム。
このネトゲにハマった。

殺した人数を競う殺伐としたゲーム。
結束と情報と時間が左右する。
単独で行動するよりも、チームを組み、
タイミングを合わせて獲物を殺す方法が効率よい。

MSNはそのタイミング合わせと情報交換、
そして待ち時間潰しに重宝していた。

無人島の別名は、廃人ゲーム。
ログインする時間が長ければ殺す機会も増える。
ゲームにのめり込めばのめり込むほど、
必然的にゲーム中心の不規則な生活に陥った。

活動する時間帯は24時間。
当然、親しくなる相手のほとんどがプータロー。
置かれている立場は似たもの同士、
1人じゃない安心感も生まれ、
生活はどんどん堕落した。

—–
CGIゲームとは
無料のオンラインゲームに多い、CGIを利用したゲームのこと。
サーバーに負担がかからないように、ログインできる回数が制限
されているものが多い。
私が遊んでいたゲームでは、ログインして行動してから10~30分
経たないと再ログインできないものだった。

16.本当の優しさ

リアルに接点がないネット上の友達はラクだった。
面識がないだけに利害関係を考えずに済む。
最低限の気遣いはするが好き勝手なことが言えた。

別にリア友に気疲れしていたわけではない。
ただ、後先のことを考えると、
話さずに胸にしまって置いたほうが、
面倒が起きなくて良いと思えるだけだ。

リア友を信用していないわけでもない。
些細なことが原因で親友を失いたくないだけ。

例えば親友に悪気はなく、
つい口を滑らせ、内緒な話が漏れたとする。
それが巡り巡って話が肥大化、
友人関係が気まずくなるのを未然に防ぎたいのだ。

考えすぎといえば考えすぎ。
でも、こうした気遣いが本当の優しさじゃない?
目に見える優しさは分りやすいけど、機械的。
ポーズに慣れれば、無意識にでもできるようになる。

—–
リアルとは
ネットの外、現実に生活してる環境のこと。
—–
リア友とは
ネットを介さないリアルの友達のこと。

17.昼食の買い忘れ

6時30分、起床。
いよいよ今日は最大の難所といわれる焼山寺。
朝食を済ませ、念入りに荷造りを始める。
不要な荷物は途中のコンビニで送り返すことに。

前日に知り合ったへたれさんとの待ち合わせは8時30分。
最初の話では7時に藤井寺で合流するはずだった。
だが、朝食の都合で遅くしてもらう。

前日に藤井寺を往復したので、迷う心配はない。
すれ違う通学途中の小学生やおばちゃんに挨拶。
「おはようございます」
一言交わすたびに清々しくなった。

農家のおばちゃんがトラックからおりて来た。
運んでいたイチゴを1パック頂く。
貰ってしばらくしてから気付いたのだが、
昼食を買うのを忘れていた。

今日のコースに店はない。
カンパンがあったので深刻な問題ではなかったが、
この頂いたイチゴが大活躍することになった。

18.やっぱり1人

8時30分、藤井寺に到着。
へたれ遍路さんとお坊さんに合流した。
時間を無駄にできなかったので話を切り上げ、
空海も歩いたという山道に足を踏み入れる。

道沿いには間隔をあけて石仏が並んでいる。
そのなかに、不動明王がいた。
お坊さんが力を分けて貰いましょうと手を合わせる。
私とへたれさんもそれにならって手を合わせた。

お坊さんを先頭に、私、へたれさん、と歩くこと10分。
疲れた・・・。
お坊さんの歩く速度がはや過ぎる。
登り道はただでさえ息が切れるのに、
会話もしていたのだから呼吸が苦しい。

少ししか登っていないのに休憩を頼んだ。
へたれさんの歩くペースは私と同じくらい。
彼も私同様、息を切らせている。

“とてもじゃないが、このペースで歩いたら膝壊す”
“焼山寺に着くまで体力が持たないかもしれない”
“それに足引っ張りたくない”

3人で歩き出して30分、
正直に「このペースでは体が持たなそうなので、
先に行ってください」と告げる。
私のペースに合わせると言われたが断った。
お坊さんが「気疲れしますか?」と察してくださり、
短い時間ではあったが、集団行動から離脱する。

19.お地蔵様の前掛け

2人の姿が見えなくなってから道に座り込む。
足をマッサージし、肩をほぐした。
貰ったイチゴを頬張る。身体が潤った。

1人はやっぱりラクだった。
道沿いには点々とお地蔵様が並んでいる。
ずっと、素通りしてしまうのが気になっていた。

1人になり、誰かの目を気にする必要もないし、
通り過ぎるときは手を合わせるようにする。
やりたいことができて、ちょっと嬉しくなった。

イチゴをお地蔵様にお裾分けしながら、歩く。
時々、お地蔵様の前掛けが落ちていた。
風雨にさらされ、紐が切れてしまったよう。
持っていた安全ピンで応急処置。
お地蔵様に前掛けをかけた。

が、その後に続くお地蔵様のほとんどが、
前掛けの紐がちぎれていて、
半ばうんざりしながらも意地で直し続けた。
あとから思うと、この時試されていたような気もする。

20.運命の杖との出会い

長戸庵、柳水庵、一本杉庵とひたすら歩く。
その道中で1本目の杖となる木の枝を発見した。
“一緒に焼山寺まで行こう”
そう呟きながら、左右内の集落に出る。
そろそろ焼山寺かなと期待するも見事に裏切られ。

ちょっとずつ焦ってくる私。
このままじゃ明るいうちに宿につけないかも。
足は痛い。でも急がなきゃ。
歩数が増える早足ではなく大股で歩くように工夫。
目を凝らしても寺の姿は見えない。不安が広がる。

自分を元気づけるために、即席の杖に話かける。
“ちゃんと焼山寺に連れて行くからね”
“絶対途中で捨てていったりしないから”
“もっとよい木の枝を見つけても無視するからね”
そんなことをいった直後だった。

その後を共にすることになる運命の杖(木の枝)と、
目が合ってしまったのだ。

滑稽だけど、正直この瞬間悩んだ。
やや大きいが、手触りといい、強度といい丁度良い。
手放すのが惜しくなってしまった。

21.神様ありがと

最初に拾った木の枝に言う。
“ちゃんと焼山寺まで連れて行くから”
“置いて行かないから、この杖を持って行かせて”
自分で決めたことなのに、私、欲に負けてる。

やっぱり手放そうかと思いかけたとき、
タイミングよく、始めの木の枝が折れた!!
その瞬間、なぜか神様ありがとう!
(この場合お地蔵様かもですが)
って心から思いました。

15時30分。
なんとか焼山寺に到着。先に別れたへたれ遍路さんがいた。
彼も結局お坊さんと途中で別れたらしい。
相当無理していたようで、膝を痛めたようだ。

雪がちらつている。
簡単に参拝を済まし、最初に拾った木の枝を、
こっそり寺の生垣の茂みに隠す。
“これでよし。ありがとうございました。”

22.なぜ一升瓶?

前日の泊まり客は、合計5人。
遍路客のみで、私以外はみな男性。
途中で別れたBさんと坊さんCもその中にいた。

私が『なべいわ荘』に着いた頃には、
男性客は酒盛りをしており、
夕食の最中も大いに盛り上がっていた。
音頭をとっていたのは、お坊さん。
一升瓶を抱え、年長のお遍路さん達に酒を勧める。

後から聞いたが話だが、
その一升瓶をリュックにつめて、
焼山寺を越えたらしい。

ちょっと絶句。
というか、なぜ一升瓶を?
なんか、お坊さんのイメージが・・・

聞くところによれば、お坊さんは四国在住。
せっかく四国に住んでいるのだから、
一度くらい遍路に出なくてはと、
日帰りの予定で1番霊山寺から歩き出したそう。
実際に歩き遍路をやりだしてみると面白くなり、
家に帰らず続けているらしい。

相当お酒好きなのか、真っ赤な顔で話し込んでる。
大声で話すので自然と会話が耳に入る。
『待ってる人もいませんし、最後まで回り切ろうかと』
あ、そういう軽いノリで良いんだ。

—–
焼山寺とは
12番札所、焼山寺のこと。
最初にして最難関の遍路転がしとして有名。
歩き遍路の多くが辛かったり大変だったことの引き合いに使う。

1/8.移動と宿泊

本日の移動

7:35 米谷旅館
8:30 11番藤井寺
12:14 柳水庵
15:30 12番焼山寺
17:00 なべいわ荘

本日の宿泊

名前 なべいわ荘(088-677-0181)
場所 12番~13番の遍路道沿い
料金 6,500円
洗濯 洗濯機と乾燥機あり
備考 木の香りがするお風呂が最高

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。